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大阪高等裁判所 昭和37年(ネ)1126号・昭37年(ネ)1305号・昭37年(ネ)1357号 判決

主文

原判決中、被控訴人と控訴人らに関する部分は控訴人江口の勝訴部分を除きすべてこれを取消す。

被控訴人の右各請求及び控訴人江口に対する付帯控訴はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用中、右付帯控訴に要した費用は被控訴人の、その余の費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、控訴人永礼、甘庶、今西、江口の申立

主文同旨の判決。

二、被控訴人の申立

(本件控訴につき)

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

(付帯控訴につき)

原判決第九項を取消す。

控訴人江口は被控訴人に対し、昭和三三年九月一日から原判決添付第二物件目録記載の家屋明渡済に至るまで一ケ月三、六二二円の割合による金員を支払え。

付帯控訴費用は控訴人江口の負担とする。

右金員の支払を命ずる部分、及び原判決第六項につき、無条件の仮執行宣言。

なお、原判決第一ないし五項の各冒頭に「原告(被控訴人)に対し」と加入し、同第一項二行目から「受付第一〇四二八号」とあるを「受付第一〇四六八号」と訂正し、同第二項二行目に「受付第五三六号」とあるを「受付第五三五号」と訂正し、同第二項三行目から「抵当権設定登記、」とある次に「同支局受付第五三六号を以てなされた同債権者、債務者間の」と加入して更正する。

第二、当事者双方の主張

(被控訴人の主張)

一、被控訴人は原判決添付第一ないし三物件目録記載の物件(以下本件各物件という)を所有しているものであるが、控訴人らは別紙登記目録記載のAないしEの登記(以下AないしE登記という)をなしている。

二、しかし、被控訴人は生来の脳性小児麻痺で生後三ケ月位で両手掌を握つた儘で手指の運動が不自由であつたところ、小学二年生の頃けいれん発作を起しその後現在まで一週間に四、五回の発作を起し、かつ言語不明瞭、手足の運動制限、精神薄弱による高度の痴愚等のため独立した社会生活を営むことは不能であつて責任能力のない常況にある。従つて、被控訴人はその母、弟らの援助により生計を維持しているものであり、又読み書きは出来ないばかりか、押印行為も極めて困難な状態であるから、本件各物件を控訴人永礼らに売却する能力もなかつたし、その必要もなかつたものである。

このような被控訴人の無能力に乗じ、控訴人永礼は被控訴人名義の私文書を偽造してA、Eの各登記をなし、その余の控訴人らは控訴人永礼と共謀してB、C、Dの各登記をなしたものであるが、これらはいずれも被控訴人の無能力に乗じて本件各物件の奪取を目的として作為された実体のない無効のものである。即ち

(一)、控訴人永礼はその主張(一)において、熊田孟雄及び被控訴人からの申込みにより、本件第一、二物件を一五万円で買受けたと主張するが、熊田は右控訴人の共謀者であり、被控訴人の弟清が同控訴人の不法な奪取行為を詰問したところ、熊田は清に対して暴力をふるい傷を負わせて罰金に処せられているのである。又代金一五万円にしても、熊田が被控訴人を姫路市や塩田温泉に二回程誘惑して遊興し、その費用を一五万円と偽つているにすぎない。

(二)、更に、本件第二物件明渡の即決和解にしても、無能力者である被控訴人のみを相手方とすると後日無効等の問題が生じるので、控訴人永礼は自己の味方である熊田及び江口伸太郎と共謀して、熊田をも形式上の相手方となして裁判所を欺罔して同和解を成立させた上、被控訴人を追出して江口伸太郎を入居させたものである。

(三)、被控訴人及び母こたけは三和円蔵に依頼して控訴人永礼に一八万円出すから本件第一、二物件を返還してほしい旨申出たところ、控訴人今西が三〇万円出せば返すと言うので、被控訴人らは協議して同人所有の姫路市飯田字善慶田の田を他へ三三万円で売却し、この金を控訴人今西を通じて控訴人永礼に交付したが、同人は内三〇万円を受取りながら右物件を被控訴人に返還せず、江口伸太郎に対しD登記をなしたものである。控訴人今西が控訴人永礼と意を通じていたものであることは、控訴人永礼が被控訴人及び控訴人今西に対し、五〇万円の貸金債権ありとしてその支払請求の訴を提起したのに対し、控訴人今西はこれを認めて慣合判決を受けていることからも明らかである。

(四)、控訴人永礼はその主張(三)において、本件第三物件を八〇万円で買取つた旨主張するが、被控訴人の全く関知しないことであり、控訴人永礼と控訴人今西、江口伸太郎、成影勝二、司法書士水野らが結託して、被控訴人の母、弟を欺罔して主張の誓約書なるものに押印させ、その他必要書類に被控訴人の印を盗用押印した上、奪取したものである。被控訴人は現金一四万円を受取つていないし、本件第一、二物件を三六万円で買戻す約定をしたこともないのに、控訴人永礼はこれを合せて被控訴人に対する五〇万円の貸金債権とするが如きは二重に金品を詐取したものである。

(五)、控訴人今西は、その主張(一)において、被控訴人らの申出により、本件第一、二物件を担保として、被控訴人のために訴外会社から金融を受けた旨主張するが、被控訴人らは同控訴人と一面識もなかつたところ、昭和三三年一月、突如右物件を取戻してやると言つて現われ、被控訴人らはその甘言に欺されて同控訴人方に出入するようになつたが、同人から金を借りたこともないし、主張の金員を受取つたこともない。右控訴人は控訴人永礼から一件書類を受取つて自己名義にした上、約一ケ月後江口伸太郎名義に移転したもので、同人らは共謀の上、右物件を奪取した。

(六)、被控訴人らは控訴人永礼、今西及び熊田を私文書偽造、同行使、詐欺等の罪名で告訴し、その事実調べも進行していたが、右控訴人らは被控訴人らに甘言をもつて和解を申込んで取下書に押印させ、無能力者なる被控訴人のみを自動車で検察庁に送り取下書を提出せしめたものである。

よつて、被控訴人は本件各物件の所有権に基づき、控訴人らに対し本件各登記の抹消登記手続を求めるものであり、これを認容した原判決は相当である。

三、ところが、控訴人江口伸太郎は昭和三九年三月二五日死亡し、その妻江口キミ、長男江口伸好、長女藤田広子、二女岡本英子、三女江口富子が相続によりその権利義務を承継したが、江口伸太郎はD登記の名義人であり、かつ本件第二物件(家屋)を昭和三三年九月一日以前から単独で占有しているから、被控訴人は右承継人らに対しD登記の抹消と本件第二物件の明渡を求めるものであるが、付帯控訴により、昭和三三年九月一日から右明渡済に至るまで一ケ月三、六二二円の割合による賃料相当損害金の支払を求める。

四、原判決には、前記被控訴人の申立七項のとおり明白な誤謬があるので、その更正を求める。

(控訴人らの主張)

一、被控訴人の主張一項の事実は認める。但し、現に被控訴人が所有者であることは否認する。同二項の事実は否認する、被控訴人は当時心神喪失の常況にあつた者でなく、意思能力及び行為能力を有していたのであり、控訴人らは後記のとおり有効に本件各登記を了したものである。同三項のうち、承継人らが江口伸太郎を相続し、その権利義務を承継したこと、並びに本件第二物件を主張の日以前から占有していることは認める

(右三項につき控訴人江口の答弁)。

二、控訴人永礼、同甘庶の主張

(一)、控訴人永礼は被控訴人及び熊田から昭和三二年九月一一八日頃、本件第一、二物件の買取方を申込まれたのでこれに応じ、代金を一五万円と定めて売買契約を締結した上、A登記を了した。

(二)、ところが、同年一二月中頃、控訴人今西及び江口伸太郎が控訴人永礼に対し、右物件の代金が安過ぎるから返還せよと毎夜のように要求するので、その応接に心労した同控訴人は友人である控訴人甘庶に依頼して同人名義にB登記をなした。

(三)、その頃、控訴人永礼は控訴人今西と同道してきた被控訴人から右各物件の買戻し方を求められたので、登記費用等を含めて四二万円で右申出に応ずる旨答えていたところ、控訴人今西及び仲介業者成影勝二から本件第三物件を買取つてくれるよう申込まれた。そこで、控訴人永礼は昭和三三年一月一六日被控訴人から右物件(田)を代金八〇万円で買受け、その代金の内五〇万円は本件第一、二物件の買戻代金三六万円と現金一四万円の交付をもつて支払をなし、残三〇万円は所有権移転登記と引換えに支払うこととしたが、右移転登記をするには知事の許可を要するので、とりあえず仮登記をなし、かつ支払つた代金五〇万円を被担保債権として抵当権設定登記をなすこととし、その旨E登記を了した。

三、控訴人今西、同江口の主張

(一)、控訴人今西は、昭和三三年一月二〇日頃、被控訴人、その母こたけ、弟末一から、末一の住家を入手するために本件第一、二物件を担保として融資方を申込まれたので、兵庫県商工信用株式会社に取次いだところ、取引のある控訴人今西に対してならば貸与する旨の回答であつたので、被控訴人らの承諾を得た上形式的に控訴人今西名義にC登記をなし、同物件を担保に右会社から一五万円を借用して被控訴人に交付した。

(二)、江口伸太郎は昭和三三年四月頃、被控訴人やその弟及び控訴人今西から、本件第一、二物件を担保に金融を受けているが、代物弁済として取上げられるおそれがあるので右借用金一九万円で買取つて貰いたい旨の申出を受けたので、これに応じて右代金を支払い同物件につきD登記を受けたものである。

第三、当事者双方の証拠関係は原判決事実摘示記載のほか、次のとおりである。<省略>

理由

一被控訴人の所有であつた本件各物件に、控訴人らがそれぞれAないしEの登記をなしていることは当事者間に争いがない。

二被控訴人は、右各登記のなされた昭和三二、三年当時、心神喪失の常況にあつて意思能力がなかつたものであり、控訴人らは被控訴人の無能力に乗じ、共謀して被控訴人名義の私文書を偽造して右各登記をなした旨主張するので判断する。

(一)、なるほど、被控訴人は昭和三六年一二月四日禁治産者とする旨の審判を受けたことが明らかであり、右宣告を受けた者は、民法上無能力者として取扱われ、その行為は個々の場合における意思能力の有無を明らかにするまでもなく、無能力者であることを理由として一律に取消されうるのであるが、右禁治産宣告以前においては問題となるべき行為のなされた個々の時点において、意思能力の無かつたことを明らかにしない限りその行為を無効となし得ないものであり、しかも右無能力の立証責任はこれを理由として当該法律行為の無効を主張する者が負担すべきものである。

ところで本件の場合、<証拠>を綜合すると被控訴人の精神状態は次のとおり判定するのが相当であり、甲第五号証の二は一部採用できない。

被控訴人は幼少時より脳性小児麻痺のため、肉体的には発声困難による言語障害や両上肢の運動制限があり、特に手指の運動は不自由で粗大な運動は可能であるが微細な運動は不能であり、又全身の痙れん発作が時々起ることがある、精神的には領解力はほぼ正常で意識も清明であるが、学歴不足により知能程度はやや劣り、計算力、読書、書字の低劣があり、言語テストによる知能指数(1.Q)は60で、性格的には固執性、被影響性や情緒的統制の悪さという特性があり、人格的に未熟である。右最終鑑定時の以前一〇年間に同人が進行性の精神疾患、脳疾患に罹つた形跡はないので、右の鑑定に基づいて昭和三〇年当時の状況を判定することは可能である。又いわゆる精神薄弱に含まれる者もその程度によつて、重症の者から順次白痴、痴愚、軽愚の三段階に分れるが、被控訴人は軽愚よりはやや程度が低いと見るべきである。

更に本件各登記時前後における被控訴人の行動につき次のとおり認定される。

1、本件以前である昭和二八年及び昭和三一年頃、被控訴人はその所有する田地を松本券次、及び八木嘉蔵に売却しており、八木に売却した代金三七万円は弟清の居住家屋を建築するために使用されていること。右売買に際し、八木は被控訴人の母親をたずねて被控訴人が田を売つてもよいのか質したことがあつたが、その後被控訴人から「あなたはわしの契約をうたがい、母や親戚に問合せた」旨不平を言われたことがある<証拠略>。

2、本件当時である昭和三二年一二月頃、被控訴人はその所有する姫路市飯田字善慶田二四八番地の一、田四畝二五歩を三和円蔵に三三万円で売却している<証拠略>。

3、単純な仲介労働によるものであるが、被控訴人はわらや化学肥料の売買を仲介して収入を得ていたことがある<証拠略>。

4、昭和三一年六月頃から昭和三二年一月頃まで、石田千代子と結婚(内縁)生活を営んでおり、しかも同人の供述によると、被控訴人は平素真面目で義理人情もわきまえていたし夫婦生活も可能であつたが、弟清には家を建て、田もつけてやつたのに、末弟末一には何もしてやらずかわいそうだと母に泣きつかれたりするので、カッとなり酒を飲んだりして生活が乱れるので別れた旨述べており、千代子が被控訴人と別れたのは同人が無知、無能力であるからでない。

5、本件第一、二物件を控訴人永礼に売却したのは、弟清が風呂の釜を引あげていつたりするので、被控訴人としてはこのまゝ放置されると困るので何か商売をしたいと思つたからで、売却代金をもつて釣具である鎮を卸店から購入するため大阪市まで出掛けたことがある<証拠略>。

6、昭和三五年九月頃、末弟末一に口述して乙第二号証の葉書を代書させているが、その文面は稍理解し難い節もあるが、兎も角三和円造のため強制的に土地をとられたので、その取戻に協力を求める依頼文と読みとることは可能であり、なお、鑑定時において右葉書の内容にふれると、被控訴人は明白な情緒的ストレスを示した<証拠略>。

7、被控訴人は橋爪春次と同級生であり、かつ近隣であつたが、同人方で世間話をするうち、禁治産宣告を受けたことに対する不満をもたらしたことがあり、同人も被控訴人が無知、無能力で一人前のことができない者と思つたことがない<証拠略>。

以上の事実を認めることができるのであり、これらの事実を前掲鑑定結果と併せ考慮するとき、被控訴人は前記のごとく知能指数が低く人格未熟であるが、それ故に本件各登記のなされた時点において意思能力が無かつたとか、あるいは、その前後を通じて意思能力がなかつたと判定することは到底できず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

(二)、進んで、控訴人らと訴外熊田孟雄が共謀して被控訴の意思能力の不十分に乗じて、その財産を奪取したとの被控訴人の一連の主張について考察すると、前掲事実摘示欄の当事者双方の主張を比較しつつ本件の全証拠調と口頭弁論の全趣旨を綜合して検討しても、いまだ被控訴人の主張の根拠とされている諸般の事実関係を認定するだけの心証をひかないのであり、

(三)、かえつて<証拠>を綜合すると、次のとおり本件各登記がなされた具体的事情を認めることができるのであり、<反証排斥略>他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

1、被控訴人は本件第一物件(土地)上にある本件第二物件(家屋)に住居していたものであるが、昭和三二年頃から弟末夫の提案により金員を借用してアイスコーンの製造販売を始め、又同製造につき技術を有する熊田孟雄を招き同居させていたが、右商売も思わしくなかつたので、本件第一、二物件を担保に金を借りて他に商売を始めようと思い、昭和三二年八月頃、熊田の知人である控訴人永礼方に熊田とともに数回訪れ金員借用方を申入れた。

控訴人永礼は右申入れを断つてきたが、同年九月になつて、右物件を買つて欲しい旨の申出があつたので、その真意を確かめてこれに応ずることとし、同月一八日頃代金を一五万円と定めて売買契約を結びA登記を了したが同月一〇日前後に数回に分けて合計一五万円を熊田とともに受取りに来た被控訴人に支払つた。

控訴人永礼は、念の為、本件第二物件の明渡のため、居住者である被控訴人と熊田を相手方として、姫路簡易裁判所に即決和解の申立をなしたところ、被控訴人は弟清とともに出頭して立会い昭和三二年一一月六日、同年同月末日限り同物件を明渡す旨の和解が成立したが、その際、清は同控訴人に対し今後とも被控訴人のことをよろしくと依頼した。控訴人永礼は同年一二月初頃同物件の引渡を受けた。

2、同年一二月中頃、被控訴人と清は控訴人今西に対し、本件第一、二物件を控訴人永礼に売つたが代金を貰つていないと告げたところ、これを聞いた控訴人今西は来合せていた知人江口伸太郎とともに控訴人永礼に同物件の返還を求め、江口伸太郎はその後も何回となく右の件で文句をつけに来た。控訴人永礼は右応対を逃れるために本件第一、二物件の登記簿上の所有名義を第三者に移転しようと思い立ち、友人で学校の教員をしていた控訴人甘庶に頼み、昭和三三年一月八日形式上同人名義でB登記を了した。

3、その内被控訴人及び当時同人を自宅に同居させていた控訴人今西から右物件を買戻すために被控訴人所有の姫路市飯田字善慶田二四八番地の一、田四畝二五歩を売却する話が持上り、そこで当時町内会長の三和円蔵は子三和太郎名義でもつてこれを三三万円で買取ることになり、昭和三二年一二月末頃、右代金から被控訴人に貸与していた五万円を差引き残二八万円を支払つた(なお、移転登記は昭和三三年五月一四日になされている)。

ところで、三和円蔵から支払うけた右二八万円では、買戻資金に足りないので、控訴人今西の提案により、これを資金として、被控訴人、その弟末一、及び今西の息子が共同して、し尿汲取業を始めることとしてその準備に着手したがこれは途中で中断された。被控訴人、母こたけ、弟らは右控訴人と協議の上、本件第一、二物件の買戻方法として本件第三物件を売却することとし、その処分及び買戻の斡旋を成影勝三に依頼し、同人が控訴人永礼と交渉した結果、昭和三三年一月一六日、控訴人永礼と被控訴人間において、水本司法書士、成影勝二、控訴人今西ら立会の上

(1)、本件第三物件を代金八〇万円で控訴人永礼に売渡す、同人は内五〇万円を同日支払い、残三〇万円は所有権移転登記と引換えに支払う。

(2)、右五〇万円は、本件第一、二物件の買戻代金三六万円と現金一四万円をもつて支払う、したがつて、右各物件の所有権移転登記に要する一件書類は控訴人永礼から被控訴人に交付する。

(3)、本件第三物件は農地であり、移転登記には知事の許可を要するので直ちにその登記手続ができないため、右支払つた代金五〇万円につき同日消費貸借契約を結び、これを担保するため、抵当権設定登記及び売買予約による所有権移転請求権保全の仮登記をする、なお、被控訴人は農地法五条の許可申請をする。

旨の契約が成立し、控訴人永礼は同日右一四万円及び本件第一、二物件の移転登記に必要な控訴人甘庶名義の一件書類を被控訴人に交付し、かつ右契約に基づき、同月二二日控訴人永礼名義にE登記がなされた。

4、被控訴人は右契約により本件第一、二物件の買戻をなしたが、当時市の分譲住宅が売りに出されていたところ、被控訴人の母が、本件第三物件を処分し残代金三〇万円も近々入ることでもあるから末一のために右分譲住宅を買つてやりたいと言い出し、被控訴人もこれを承諾したが、右買取資金に不足し、又買取申込期限もせまつていたので、とりあえず本件第一、二物件を担保に金を借りるよう控訴人今西に依頼した。同人は右依頼に基づき、取引先である兵庫県商工信用株式会社と交渉したが、同社は取引のある控訴人今西になら貸与するとのことであつたので、被控訴人や母こたけ及び弟らにその旨伝えたところ、被控訴人らは同物件の所有名義を形式上今西名義とすることにつき同意をなし(丙第二号証)、早急に借りてほしいとのことであつた。そこで、同控訴人は控訴人永礼から交付を受けていた甘庶名義の所有権移転登記に必要な一件書類を利用して同物件につき、同年一月二二日控訴人今西名義にC登記をなした。

同人は同物件を担保に、右会社から一五万円を借用したが、手違いから右分譲住宅を購入することができなかつた。

5、ところが、右借用金を期日に返済できないこととなり、代物弁済として本件第一、二物件を前記会社に取上げられるおそれが生じたため、被控訴人や母らが控訴人今西及び三和円蔵に相談したところ、当時勤務先を退職し、その社宅の明渡期限も切れ住宅を物色していた江口伸太郎に買取方を交渉することになつた。江口は同人らから申出を受けて右物件を調査したが、非常に古く居住に耐えがたいようであつたので断わつたが、被控訴人やその母、弟らから売買代金は右担保を消滅させるに必要なだけでよいと懇請するので、意を決して買受けることになつた。そこで、被控訴人らにおいて買戻資金ができた時は買戻すことができる、江口は被控訴人らと同居するとの特約付で、とりあえず江口伸太郎が右借用元利金で右物件を買取り、昭和三三年四月三〇日同人名義にD登記がなされた。同人は前記会社に借用元利金一七万二、三〇〇円を支払つてその担保権を消滅させた。

6、被控訴人自身は十分の意思能力を有しなかつたことは前認定のとおりであるが、母あるいは弟ないし、熊田、今西、三和らの援助を受けて以上の行為をした。

以上の事実を認めることができ、右事実によると、本件各登記が被控訴人の意思無能力に乗じ、控訴人らが共謀して各文書を偽造してなされた無効のものであるとする被控訴人の主張が理由のないこと明らかであり、かつD及びE登記は現在の実体上の権利関係と合致するものであるから、同登記は維持されるべきであり、又江口伸太郎、したがつてその承継人である控訴人江口の第二物件の占有はその権原に基づくものであるから、結局被控訴人の控訴人らに対する本訴請求は控訴人江口に対する付帯控訴も併せすべて理由がなく棄却されるべきである。

三以上により、原判決中、被控訴人と控訴人らに関する部分は控訴人江口の勝訴部分を除きすべて取消した上、被控訴人の控訴人らに対する右各請求及び控訴人江口に対する付帯控訴を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、九六条、八九条にしたがい主文のとおり判決する。

(沢井種雄 和田功 中田耕三)

<登記目録省略>

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